◆英国政府の公式刊行物『軍需省の歴史(History of the Ministry of Munitions)』をデジタル化
第一次大戦はイギリス国内の政治経済に大きな影響を及ぼしました。当初短期間で終結すると予想された戦争が予想に反して長期化の様相を示すと、党派対立は一時的に棚上げされ、挙国一致して国難に立ち向かうべく、自由党の単独政権から保守党、労働党も政権に参画する連立政権への内閣改造が行われました。また、従来志願兵制度の下、自発的な志願によって兵士が集められていたのが、開戦2年後の1916年に徴兵制が敷かれます。さらに、食糧配給制度、鉄道や造船など基幹産業への国家統制、社会保障や住宅問題への国家の積極的関与など、経済や社会の各方面に国家が介入するようになります。こうして、国内の政治、経済、社会、軍事のあらゆる局面が円滑な戦争遂行という目的の下に再編成させられる総力戦体制が現れました。
この総力戦体制のシンボリックな存在が1915年に創設された軍需省(Ministry of Munitions)です。イギリスは依然として大きな工業生産能力を有していたものの、工業生産力を前線での戦争遂行に役立てる大局的な設計・調整能力に重大な欠陥を抱えていました。それを明るみに出したのが前線での弾薬不足問題で、兵站の失敗により多くの兵士が戦死している状況は『デイリー・メール』や『ザ・タイムズ』等のメディアによって大々的に報じられ、政府と軍部は批判の矢面に立たされました。このような状況に直面した政府が軍需品の生産を政府直轄下に置き、軍需品の円滑な生産と供給を行なうことを目的として創設したのが軍需省で、初代軍需相には翌年から終戦まで首相として連立政権を導くことになるロイド=ジョージが就任しました。軍需省の創設に伴い、軍需品の生産には240万人、15,000社が携わり、200以上の工場が国有化されるか、軍需品専門工場に転換させられました。軍需省は戦争指導体制の行政面における中枢機関として、戦時下イギリスの経済と社会に多大な足跡を残しました。軍需省の創設は一政府省庁の創設という意味合いを超えて、自由放任的な19世紀システムから経済社会活動へ国家が積極的に介入する20世紀システムへの転換を画する重要な出来事として、学問的に検討すべき意義を有しています。
本コレクションは、第一次大戦期の軍需省の活動の実態を記録すべく刊行されたイギリス政府の公式刊行物『軍需省の歴史(History of the Ministry of Munitions)』(全12巻)をデジタル化し、OCR処理を施し全文検索を可能にしたものです。原本は戦後直後に刊行され、1976年にはハーヴェスター・プレスからマイクロフィッシュ版として復刻されています。
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