出版社 | (UPA, US) |
---|---|
出版年 | 2005 |
ニュース番号 | <K05-356> |
『アメラシア』事件とは、第二次大戦末期のアメリカで、政府文書を不法に流出・所持したという容疑で、アジア問題専門誌『アメラシア』の編集者やジャーナリスト、国務省の中国問題専門家が逮捕された事件で、センセーショナルな事件として世界の注目を集めました。『アメラシア』は1937年3月から1947年7月まで発行された雑誌で、日本の侵略反対、中国の抗戦支持を主張、大戦後は蒋介石国民政府の非民主的な政策を批判し、中国共産党をはじめ抗戦と中国の民主化を要求する勢力の主張を支持していました。
英国情報部員から注意を喚起されて『アメラシア』誌1945年1月26日号を読んだOSS南アジア研究班長ケネス・ウエルズは、その中に、彼自身がまとめた東南アジアでの英米関係に関するOSSの機密報告の一部分が盗用されていることに驚きます。OSS当局は直ちに調査に乗り出し、アメラシア事務所を見張り、数日後の夜中に事務所を急襲しました。室内には、夥しい量の政府機密文書のコピーがあったといわれ、文書の中には陸軍省、国務省、戦略情報局(OSS)、検閲局、海軍情報局そのほか国家安全保障に関わる政府機関のものが含まれていたといわれます。国務省と海軍省からの通報を受け、FBIはスパイ事件として直ちに捜査に加わり、『アメラシア』編集者ジャッフェ、同ケート・ミッチェル、新聞記者マーク・ゲイン、海軍省アンドリュー・ロス、国務省員ラーセン、国務省での中国問題専門家ジョン・サーヴィスの周辺を調査しました。
1945年6月『アメラシア』誌に関わる上記6人が逮捕され、中国の共産主義者やソ連へのスパイ嫌疑をかけられました。しかし秘密を外国に流した証拠は無くスパイ行為としては立証できず、国防に関する文書不法所持という防諜法違反容疑での告発となりました。証拠として押収された文書も告発を充分に裏付ける証拠とはなりえず、大陪審ではゲイン、ミッチェル、サーヴィスが不起訴となりました。ジャッフェ、ラーセン、ロスはワシントンの地裁に無罪の訴えを起こしますが、渦中でFBIによる不法捜査が暴露され、窮地に陥った司法省はジャッフェ、ラーセンと取引して2人の罰金刑で結末とします。ロスに対する起訴は証拠不十分としてとり下げられました。この事件はセンセーショナルな発端にもかかわらず簡単な結末で終わりましたが、あいまいさを残した結末となり、以後、政治問題を生み出す火種を残したといえます。
この事件は政府の機密と国民の知る権利、取材の自由との関係という重要な問題を提起しています。また、国務省の中国専門家ジョン・サーヴィスがこの事件に巻き込まれたことが、その後のマッカーシー旋風での国務省スタッフに対する攻撃につなげられ、アメリカの中国政策をめぐる米国内の論争とも深く関わっていきます。本FBIファイルは被告6人に対する盗聴テープによる記録も含まれています。米国の対中国政策、米国内の"ソ連のスパイ"、"赤の恐怖"の成長する背景事情なども窺えます。
・ISBN 978-0-88692-754-7 microfilm